Scene.17 みんなで歌って踊れる本屋だぜい!
高円寺文庫センター物語⑰
「店長、そのバインダーはなんね? 表紙に、貼ってあるのはチケットね?」
「ニューバーグのママさんに見せちゃる、ボクが中学時代に作ったビートルズのスクラップブックばい!
日本公演のチケットなんよぉ~よかね?!」
「店長の世代は、ロックの黎明と歩んだもんなぁ・・・・羨ましかねぇ」
「殿! ランチにいらっしゃい!」
「すんません、はい! 前から話していたビートルズ日本公演のチケット」
「わ、殿よくまぁ~大事にしていたわねぇ。私のなんか、どこに行ったやら」
「日本公演には、5万人も行っているのにさ。1億2千万もいる人口じゃなかなか出会えないなかで、巡り逢えるって嬉しいじゃないですか!」
「ホントねぇ・・・・はい、今日は冷やし中華!
梅雨は蒸すから、これで乗り切ってよ」
「店長。頼まれた本を、市で見つけましたよ」
ボクのランチが終わってニューバーグは休憩に入るから、食後の一服は文庫センターの外でスモーキング・タイム。
そんな時に、近くで古書店を営む長谷川さんにバッタリ。本は出合った時がお買い時なのに、買い逃すと再会は難しいことがある・・・・
ノーマン・メイラーの『裸者と死者』新潮文庫を買い忘れ、既に一般的な書店では手に入らなくって長谷川書店さんにお願いしていた。
高円寺には、東部古書会館という古書店業界の司馬遼太郎風に言うなら「古書の配電盤」がある。それ故に、北口駅前の都丸書店をはじめとした古書店が数多あるのも楽しい。
書泉時代に、神保町の老舗古書店の方々のご薫陶は忘じ難し。そして高円寺では、長谷川書店さんに古書の流通などを学べてありがたかった。
新刊として本が出回る一時流通、古書として再生される二次流通。いやいや、出版流通の寡占化を推し進める取次の呪縛から解き放たれた「二次流通」にこそ、この国の出版文化の奥深さがあったと教えられた。
その本を、どう評価できるか。新刊が通過していくだけの書店と、古文書を始めとして数多の古書を吟味する古書店は異次元。
書店は文化産業等というけれど、古書店の持つ重厚な文化に震撼させられるばかりだった。
そりゃそうだ。他業界が安直に参入できて、本屋をやっちゃうんだもん!
おなじアホなら踊らにゃそんそん!
商店街には阿波踊りの提灯が飾られ、スピーカーからはお囃子が流れ始めた。
「また、阿波踊りばいね」
「休みたい・・・・」店長のテンションがダウンする季節。